Fediverse観2023 後編:ActivityPubはポストTwitterなのか

2023年12月11日テクノロジー

この記事は、Fediverse Advent Calendar 2023の第4会場の11日目の記事です。

すみません、2記事目です。1人で2つ書いてます。お邪魔しております。

前編は先週12月4日公開の、こちら。

後編では、今後のFediverseの展望をつらつらとポエムろう(動詞)かと思います。

テーマはタイトルのとおり、ActivityPubはポストTwitterなのか。

Fediverseの定義

いろいろ定義があるような気がしますが、
私は「複数のインスタンスがつながりあって1つの世界を構成するもの」という定義をしています。

Federation(連合) + Universe(宇宙/世界) のカバン語の私なりの解釈です。

そうすると、
ActivityPubという技術でつながっているMastodonやMisskey(ほかにはPleroma、Akkoma、Dolphinなどなど)に限らず、
ATProtocolを採用しているBlueskyもこれに含みます。
一方、Xやタイッツー、(記事公開時点ではまだActivityPubに対応していなかった)Threadsは除きます。

でも話がややこしい&FediverseといえばだいたいActivityPubを指すことが多いので、
今日はActivityPubに絞った話にしようと思い、このタイトルになりました。

Twitter(X)の代わりは存在しえない

X ( formerly known as Twitter ) には、世界中の個人・企業・自治体が一同に会しています。

どのような組織も、個人も、等しく声高に「X(旧Twitter)やってます!」と言っている時代です。

そしてXに行けば、個々の発言に対するすべてのリアクションがワンクリックで全部見られます。
(当たり前な話に見えますが、これはXの長所です(あとで出てきます))

このようなプラットフォームは他には検索エンジンやWikipedia、YouTubeぐらいなものです。
なおかつ同じレベルの情報を双方向に発信できる場、と考えると、Twitterは人類史上初の存在です。

今夜は冷え込むという天気予報も、
戦争を伝えるメディアも、
本田圭佑にジャンケンを挑むのも、
世界のネコチャンも、
ファルコンランチも、

全部同列で見れる媒体はこの世にほかにありません。

考えられる限りで、人類史上最大のコミュニティです。

ここにアクセスすれば地球の全情報が手に入ると言っても過言ではない。

すなわち、Twitter(X)は世界なのです。
Twitter(X)こそがUniverseなのです。

イーロンマスクは完成された世界を手に入れました。

これを今から短時間で作り直すのは、現実的に不可能と言えます。

Mastodon/MisskeyはXの代わりではない

MastodonもMisskeyも、作るきっかけは別にあれども、いずれも「Xの代替」を目指したものではありません。

それぞれ独自の色を取り入れ、Twitter(X)ではない世界を切り開こうとしたものです。

…これに対して、ThreadsやBluesky、タイッツーはXの代わりを目指したものと言えます。

まずここに、ActivityPubのひとつの性質が見える気がします。

Fediverseの考え方を完遂するのは難しい

最初に定義した「複数のインスタンスがつながりあって1つの世界を構成する」ということについてですが、

これは正直夢物語です。

別インスタンスである、という壁は相当高いものに見えます。
とくに、現在のActivityPubの実装においては。

反応の全貌が見れない

発言元になるサーバー以外では、とある発言に対してのRT/RN、いいね、リアクションの全貌が見えません。
これはActivityPubの仕様によります。
そのインスタンスから観測可能な範囲の反応しか見れません。

何RTされたか、すら分かりません。

発言元になるサーバーに見に行けば見れますが、正直このワンクリックの手間は大きいです。
ほとんどの場合、別のブラウザページが開いて閲覧することになりますが、この心理的障壁はだいぶデカい。

さらには、Mastodonでの発言にMisskeyでリアクションをつけた場合、
Mastodon側では「いいねがついた」としか分かりません。
何のリアクションがついたのか、第三者サーバーはおろか、発信者にすら届かないという事態。
交流してる感は、X内での交流とは大きな差があります。

別サーバーのユーザーを見つけるのが大変

私のおひとりさまサーバーでのアカウントは、@gorou12@mstdn.pokete.comです。
…長くないですか?

Xアカウントは@gorou12です。
シンプルですね。

長い短い以外にも、Xの場合アカウント名を検索欄にぶち込めばだいたい見つかるのですが、
ActivityPubのアカウント名は検索欄に入れても見つからないことがあります。
特にMisskeyの場合、検索ではなく「照会」という機能を使うのが原則になります。

「照会」、使ったことありますか?
メニューにひっそりいるんですが。

正直アカウントを教えてもらったからといって、気軽にフォローできるかと言われると…。

ローカルTLで完結している

アカウントを教えてもらったからといってフォローできない、もうひとつの理由がこれです。

ほとんどの場合、ローカルTL(LTL)で完結していると思います。
Misskeyの場合はSTLかもしれませんが、似たようなものです。

サーバー内であればフォローしていない人でもつながれる、という機能なのですが、
そのせいで「フォローはしなくてもいい」という発想に至ります。

フォローしないと見えない人よりも、フォローしなくてもいい人と
会話するほうがずっとラクじゃないですか。

そしてそのぶん、同じサーバー内のユーザーとは相互フォローしても仲良く過ごせることが多いです。
ただのクラスメートから気心が知れた友達になる感覚です。
帰属意識という言い方もできるかも。

これはMastodon、Misskey問わずどのサーバーでも起きています。

それこそ、起きていないサーバーは私のように個人サーバーを構えているか、
(↑の事象が起きないように)あえてLTLを搭載していないFedibirdぐらいなもので。

別サーバーは別サーバーで同様にLTL内で会話をしているため、フォローしようと思ったとしても、
結局申し訳ないor話が分からないのでフォローできないことも多々あります。

…という関係で、サーバーの垣根を超えた交流は、カンタンには起きません。
それこそ物好きぐらいなものです。
ふつうのユーザーは「ActivityPub」と言われても、知りません。
(このアドベントカレンダーに参加してる皆さんは等しく物好きだと思いますが)

Misskeyという文化

もっとも大きな合う合わないポイントです。
日本ユーザーにActivityPubを浸透させる上で、これが一番大きな障壁だと感じています。

私も、いかすきーができるまではMisskeyという文化に激しい抵抗がありました。

リアクション文化が子供っぽいというのも大いにあるのですが、それ以外にも…

サードパーティクライアントがかなり少ない

リアクション周りのAPIがちょっと不十分なようで、
サードパーティクライアントが(Mastodonも少ないけれどそれ以上に)少ないです。

複数インスタンスを渡り歩く場合、公式WebUI=そのインスタンスのページをタブごと切り替えるほかなく、
実質1つのインスタンスに入り浸らざるを得ません。
複数インスタンスのカラムを1画面に表示できるDeck型サードパーティクライアントが非常に少ない…

これは状況だけ見れば、サードパーティクライアントが排除された今のXと近いです。
ただ一点、公式WebUIの使いやすさは雲泥の差という違いはあります。

チャンネル機能と連合なし機能

Misskeyには「チャンネル」というものがあります。
Xでコミュニティと呼ばれるものと類似しています。
違いとしては、1ユーザーでいくつでも作れる点と、作るとインスタンス内で広く公開される点。

ここで投稿したノートは「ローカル・連合なし」扱いとなります。

また、通常のノートにおいても、投稿ボタンの近所にあるロケットのボタンを押すことによって
カンタンに「連合なし」にすることができます。
設定画面から連合なしをデフォルトにすることもできます。

この「連合なし」、どういうことかというと、
別サーバーに送信されないということ。

Mastodonの「未収載」トゥートは、自分をフォローしている別サーバーの人にも配信される一方で
Misskeyの「連合なし」ノートは、自分をフォローしている別サーバーの人には見えません。
(なお、Mastodonの「未収載」はMisskeyの「ホーム・連合あり」と同等です)

この「連合なし」機能はしばしば乱用されます。
外部に送ることがなくなるという説明だけを聞くと全投稿につけたくなるのですが…

外部に送ることがなくなるのは、原則デメリットでしかないんです!!

Federationしないんです!Fediverseなのに!!!

ほかの人に見せたくないならプライベート投稿にするか、一切見せたくないなら自分宛にDMをするとよいでしょう。
連合なしは、「どこからどう見てもサーバー内のローカルTLでしか通じないネタ」と断言できるものにしか
つけないのがいいと思います。

思うのですが……でも、なんだかんだ連合なしにしたくなる気持ちも分かります。
機能として存在しちゃうのでね。

あと、チャンネル機能を使って会話をすると、絶対に連合なしになります。

チャンネルは内輪ネタばかりだからという期待なのだと思いますが…
内輪ネタは同じサーバー内で完結するとは限らないでしょう?と思うのです。

私はioにアカウントを作らない限り、ioの音ゲーチャンネルやスプラチャンネルを見れないのです。
それは不本意なのです…。(ioにアカウントあるけど。)

そのように、Misskeyの親切機能が日本人の心理に働きかけた結果、Fediverseみがなくなっている面があります。

.ioが総本山かつ独り勝ち

Mastodonはmastodon.socialが開発元直営インスタンスです。
Misskeyは開発者が運営するインスタンスは存在しないものの、実質Misskey.ioが準直営のような働きをしています。

Mastodonは.social以外にも大規模インスタンスは結構あるのですが、
Misskeyは.ioがMisskeyユーザーの過半数を集めています。

MisskeyはMastodonの規模に比べるとまだまだ小さい(しかもほぼ日本人だけ)コミュニティであるのが
影響していそうな気もしますが。
(こう見えても人口はMastodonより少ないのです)

先にも触れましたが、チャンネル投稿やローカルTLで盛り上がっている会話を見るためには、.ioに登録せざるを得ない。
(ほかのMisskeyインスタンスも同様ですが、.ioは人口が大変多いので必要度は高いでしょう)
そうすると.ioに入り浸らざるをえないため、さらに集中が極まっている印象です。

付け加えると、準直営たるMisskey最大のサーバーの.ioは、トラブル対策や負荷対策が叫ばれています。
ということで最近のソフトウェアとしてのMisskeyも、.ioのトラブルに対応するためのものが多くなっています。
そのおかげで.io以外のサーバーが割を食うこともしばしば。
(例:あるアップデートを境にタイムライン構築ロジックが変わり、
アプデ前の投稿は一部タイムラインに出なくなった時期があった)

いいところもある

なんか、けなしてばっかりな気がしたのでフォローをしますが。
公式WebUIは非常にいい出来なので、Federationすることさえ考えなければ、非常に快適です。

また、やはり絵文字リアクションはしっくりきます。
仕事でSlackにチェックマークを付けたり顔アイコンをつけたりすることがあるかもしれませんが、
それと同じことがSNSでできるのは、意思疎通に大変便利です。

イーロンマスクに見放された(APIを止められた)しゅうまい君現在.ioでバカンスしてますが、
リアクションシューティングと結構相性がいいです。
Twitter(X)にあったツッコミリプライや炎上しゅまい、開園閉園が発生しなくなった分、
各サーバーのオリジナリティあるリアクションによるツッコミが見れるようになりました。
どちらがいいかは好みによりますが…これはこれでありではないかなと。

なによりモデレーターを務めているサーバーがある以上、
なんだかんだMisskeyに触れている時間は長いので。
嫌いではないのです。

Fediverseという言葉の流れでいくと、ちょっとなあ って感じ。
巨大なDiscordサーバーにみんなで参加しているのと感覚は同じです。

「公式」が参入しづらい

ふたたびMastodonを含めたActivityPub全体の話になりますが、
自治体や企業の「公式」ができにくいです。

公式ドメインを使って設立することで、本物であるという証明はとてもカンタンにできるのですが、
それ以外の障壁がたくさんあります。

  • 自社内(あるいは知識のあるベンダー)にてサーバー運用をしないといけない
    • XはX社がサーバーを持っているので。
  • 社内で稟議を通すのは厳しいだろう
    • 知名度が低いので。
  • 仮にできたとして、MisskeyやMastodonにアカウントを持つユーザーがフォローをしてくれることは少ないだろう
    • フォローできるということを知らないユーザーが多い
  • そもそも、ActivityPubの人口は少ない
    • そんな手間をかけるならXにいるほうがずっと良い
    • ワンチャンThreadsならギリ対抗馬になりえるか

全国民にあまねく企業を周知するためには、まだまだXのほうが優勢です。

そんなできにくい「公式」アカウントですが、その数少ない例外として、
災害・緊急速報を政府や公的機関からダイレクトに送信していることでおなじみ、特務機関NERVがあります。
いち早くActivityPubに参入し、自社インスタンスをフル活用して多目的に活用しています。
これが「公式」のあるべき姿ですが……他社がそこまでできるかと言われると、疑問符がつきます。

日本の独特な文化

IT関係について、日本は大変独特な文化の発展を遂げているのはご承知の通りです。
どちらかといえば時代遅れというか、突飛というか。

ガラケーを産み出し普及したことといい。
(ガラケーとはガラパゴスケータイの略称。
 まるでガラパゴス諸島の生態系のように、日本独自で世界と違う進化を起こしたからそう呼ばれている)

iPhoneが大人気なことといい。
(日本では安定して約7割のユーザーがiOSを使っている。
 グローバル目線ではAndroidが約7割のシェアを誇るが、アメリカに限定するとiOSのほうが若干上回ったようだ)

Twitterも世界の趨勢を比べると、日本のシェア率は異常です。
イーロンマスク最大の悪行を実行した直後である7/13時点で、
日本のTwitter利用時間は世界一という記事も出ているぐらい。

その記事でも触れられていますが、世界を見ると、シェア1位はFacebook。
次いでYouTube、WhatsAppやInstagramと続き、Twitter(X)はかなり少ないです。

たしかにアメリカでは続々と広告出稿取りやめが報じられ、都度都度マスクが反論していますが
日本企業が出稿を取りやめたという話はあまり聞きません。
もちろん、Xに広告出稿している企業の規模が日本とアメリカで比較にならないのもあるでしょうが。

アメリカはXの仕様変更はもちろん、
ヘイトスピーチへの対応が後手になっている(むしろ助長している)とか
イーロンマスク本人がヘイトスピーチしてるとかの関係で
広告取りやめが決断されることが多そうです。

おそらく日本は「ヘイトスピーチ自体がまだそんなに深刻な扱いをされていない」
「英語が読めない」という事情で、それらがXのイメージを崩すには至ってないものだと思います。

(要は日本人はバカ)
(某ニーズ事務所ぐらい分かりやすいことが起きないとダメっぽそうですね)

そんなこんなで一般ユーザーも、余所に行かなければならないという
使命感もあまり見受けられません。

自分は(あと、アドベントカレンダーに参加してる皆さんは)使命感のもと引っ越したんですが。

今ならみんなでThreadsに行こうとか、
そういうムーブメントがあってもおかしくないのですが…
それも特に見られず。

少なくとも日本においては、Xに対する信仰は相当根強いものと思っています。
特定界隈がどうとかではなく、一般的に考えてどの界隈もそうです。
個人的にびっくりしてるのは、IT界隈ですらXから動こうとしないこと。
IT界隈とは…??となりましたが。

そしてここまでされてもまだまだ元気なので、
Xにとって日本市場はおそらく2024年も安泰です。
X社が日本に開発拠点を新設するのも必然でしょう。

来年はどうなっているのだろう

ここまでを踏まえると、Xという牙城は来年も崩れず、共存しつづけるものと思います。
おそらく、ポストするのに月額1000円ぐらい取られたとしても変わらない気がします。
(なんだかんだで払うでしょ?自分もだろうけど)

億が一、牙城が崩れたとしても、流れる先は大手が運営する代替サービスかと思っています。
Threadsや、そもそもInstagramだとか。
(そういえばGAFAMのうち、Google、Apple、Amazon、Microsoftは対抗サービスを持っていないですね)

我々ActivityPubはXの受け皿というわけではなく、「もう一つの世界」を作ることになるかと思います。

Twitterの黎明期はブログや掲示板の全盛期だと記憶しています。
ミニブログとしてもてはやされていましたね。mixiのライバルでした。
そのころのTwitter並の影の薄さが、今のActivityPubかと思っています。

あらゆるものはコミュニティが成長することで
「昔はよかったなあ」と零す運命になります。
Xだってそう。Twitter時代だとしても、2008年ごろのほうが楽しかった気がします。
いずれActivityPubや、Fediverseもそうなる時が来るかもしれません。
…ただ、それは2024年ではない気がします。

ActivityPub界隈としては、各サーバーとも、「それ、デカいDiscordサーバーとなにが違いますか?」を
説明できるように改善を進めていただきたいところです。
Discordサーバーは別Discordサーバーとの交流が一切できません。1つで完結した世界です。

そうなってないか?外部と交流できるというActivityPubとして、在るべき姿は?

これらを考えて、ソフト開発していただきたいものだし、
私たちサーバー管理側の人間もそのような運用をユーザーに働きかけていきたいところです。

私個人としては、引き続きXとActivityPubの両立を模索していきたいなあと思っています。

ということで、2023/12/11時点では、
Xは@gorou12
Mastodonはおひとりさまマストドン@gorou12@mstdn.pokete.com
サブとして、いかすきー@gorou12@ikaskey.bktsk.com とイカトドン@gorou12@ika.queloud.net
で展開していますので、気になった方はフォローしてみてください。
(状況が変わったら随時このブログのプロフィールページを書き換えます)

以上。